デザイナー吉岡徳仁氏に独占インタビュー。
1967年生まれ。2000年吉岡徳仁デザイン事務所設立。プロダクトデザインから建築、展覧会のインスタレーションなど、デザインの領域を超える作品はアートとしても高く評価されている。数々の作品がニューヨーク近代美術館などの世界の主要美術館で永久所蔵されている。Design Miami / Designer of the Year 2007受賞。TBS系ドキュメンタリー番組「情熱大陸」への出演、アメリカNewsweek誌日本版による「世界が尊敬する日本人100人」にも選出されている。
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“携帯電話の内側をデザインする”という発想の転換
—X-RAYのコンセプトについて教えてください。
この10年間で、携帯電話のデザインを巡る状況は一変しました。シンプルなデザインにせよ、ラグジュアリーなものにせよ、あらゆるデザインが出尽くしている中で、「まだデザインされていないところはどこか」と考えた結果、外側のかたちではなく、内側からデザインすることに思い至ったのです。
—これまで人目に触れなかった内部の構造に着手したということで、技術的な挑戦も多かったのではないでしょうか。
そうですね、露出できるものとできないものをどう組み合わせていくか、外側のデザイン以上に難しい問題がありました。そこで最初に、内部の理想の配列をイメージして、それが技術的に可能かどうか、エンジニアとやりとりを密にしながら、問題を一つ一つ解決していきました。例えば、基板は通常はグリーンですが、黒く塗装を行い、印字されている文字も一つずつデザインし直していくなど、細部にも心配りをしています。
—一方で、ボディの透明感には、どのようなことを心がけましたか。
透明感と言っても、かつての“スケルトン・ブーム”の頃のようなプラスチックな印象ではなく、より大人っぽくエレガントな風合いを出したかったので、素材選びにはこだわりましたね。そこで直面したのが、「クリアな透明感を持ちながら、高い強度を兼ね備えなければならない」という素材の問題です。新しい素材を探すところからスタートして、ポリカーボネートとガラス繊維を混合した新素材を見つけ出しました。
光を透過したり、角度によって光を放つことで、物体として存在感を現すもの、言い換えれば、シンプルでありながら印象深いものに心を惹かれます。その意味でもこのX-RAYは、ずっとやりたいと思っていたアイデアでした。プロダクトデザインというよりも、光を直接モノに組み込むことで、まったく新しい表現を生み出したかったのです。プロダクトデザインは、微妙な素材の差であったり、技術的な制約など、ごくわずかな要素で印象が大きく変わってきてしまいます。透明な携帯電話と聞くと、「何故これまでなかったんだろう」という感覚を覚えるけれども、技術的な理由もあり難しかった、ということではないでしょうか。
吉岡氏のこだわりが生んだ、RED/BLACK/BLUEの3色を展開。
澄みきった美しさを湛えた姿は、まさに無垢のアートピース。
10分の1ミリを追求した、“感性のデザイン”
—外側のフォルムについては、どのようなことを意識されていますか。
なるべく薄いほうが、持った時に手がきれいに見えるという理由で、角の部分を面取りして、薄さをより印象付けています。最初にCGでデザインを描き起こし、それを元に透明なアクリルで実物大の模型を作り、実際に持ってみて検証を重ね、細かい部分を調整していきました。携帯電話のデザインは10分の1ミリの差で感触が大きく変わってきますから、かなり細かいところまで詰めていくことができて、とても面白かったです。
着信ランプには特にこだわりました。よくあるような、光源を面で見せるものではなく、小さな点から明るい光を放つために、初期のアイデアでは光ファイバーの先端を埋め込むことも検討しました。女性的ということですが、じつはデザインにあたって最初はいつも、女性が使っている姿をイメージしています。でもこれまでは、蓋を開けてみると、なぜか男性の支持が多かった。今回はどうなるのか楽しみです。
女性が心躍る、“セクシーなデザイン”の試み
—X-RAY本体だけでなく、それに付随するアクセサリーもデザインされていますね。この置き台は、まさにアートピースと呼ぶべき存在感を放っているように思います。
X-RAYを彫刻に例えて、そのコンセプトをより際立たせるためのオブジェをイメージしました。1点1点、アクリルを手磨きで仕上げているのですが、こういったシャープな形状は表面を美しく磨き上げるのが難しいにもかかわらず、本当に美しい仕上がりになり、とても気に入っています。
じつは最初の段階では、「着信ランプ自体にスワロフスキーを組み込む」というアイデアもありました。化粧品のパッケージなどをデザインしていても、シンプルなデザインを追求していく流れの一方で、もっと女性がわくわくするような色気やセクシーさが世の中には必要ではないか、と感じることが多いのです。そういった経験もあり、「大人の女性にふさわしい装飾を」と考えて、着信ランプの光できらめいて見えるよう、スワロフスキーのチャームを提案しました。
“美しいかたち”が切りひらく、“五感のデザイン”
“その人そのもの”と言ってもいい存在だと思います。それだけに、似通ったデザインがほとんどを占める現在の状況に対して、原点に立ち戻った “新しい切り口”を提案しようと思いました。実際、工業製品のデザインというと、技術面や費用の制約から元のアイデアを実現できないケースが大半なのですが、今回はこうした意識を共有しながら、さまざまな立場の方々とチームを組み、一つの結論をめがけて作り上げていくことができました。こうした姿勢は、必ず製品の仕上がりにも表れてくるはずです。
“体験”です。モノ自体のかたちよりも、音や光や動きなどを通して「どういう体験ができるか」が重要になってくると思います。工業製品のデザインに重要なのは「人間が感じる五感をどうデザインするか」ということです。そのうえで、できるかできないか、ぎりぎりのところを実現していく。「今はまだ存在しないけれども、こうすればできるんじゃないか」という、不可能と可能の境界線を攻めていくところにこそ、面白さがある。だから今回のプロジェクトには、時代のタイミングがとても重要でした。自分が思い描いたものをこうして実現させていただけるような時代に生まれることができて、幸せだと感じています。
(2000-01年)
自然界に存在する高い強度のハニカム構造からアイデアを発展。120枚の積層された薄紙を開くと立体に。そこへ人が座ることで、椅子のフォルムを作り出す。
(2002年)
プラチナの型によって生成された特殊ガラスは、スペースシャトルにも使用されており、まるで水の塊から生みだされたように透明で力強い造形を持つ。
ヤマギワ(2007年)
単なる照明器具ではなく、「光の原点そのもの」をデザイン。透明ガラスの球体に光が浮いているかのように見える姿が、人のハートの大きさを連想させる。
(2008年)
水槽の中で結晶を成長させることで姿を現す椅子。無の状態から自然の力によって時間とともに現れる姿が、予期せぬものの美しさを伝えてくれる。
Swarovski(2007年)
「クリスタルの香りを身にまとう」という発想の香水(未実現)。「感覚に響くデザイン」を打ち出すきっかけとなった。
Swarovski Crystal Palace(2010年)
自然結晶を成長させることで作り出した球状の塊を、スワロフスキークリスタルを用いて表現したシャンデリア。
Crystal Forest(2006-08年)
スワロフスキー銀座店のデザイン。ステンレスミラー約1500本からなるファサードが、幻想的な光景へと人々を誘う。
MUSEUM.beyond museum
(2006-10年)
500本のクリスタルプリズムで高さ9mのステンドグラスを制作。長年の構想が実現した、虹の光が満ち溢れる空間。

